杜ちゃいるど園(神奈川県)

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大竹  みどりさん

 

保育園勤務を経て、社会福祉法人ル・プリ社に入職。

「かさまの杜保育園」の副園長を経て、2011年園長に。

2015年、「杜ちゃいるど園」の立ち上げとともに園長に就任。

 

https://le-pli.jp/facility/mori-childen/

 

 

Q:大竹さんが、保育の世界に入ろうと思われたきっかけは何ですか? 

実は、きっかけは小学生のときに再放送で見た『タイガーマスク』というマンガなんです。

その中に、養護施設で働く女性が出てくるんですけど、それを見てから、自分は養護施設で働こうと思ってたんですよ。一生懸命、子どもたちのお世話をしているところに、「きっとやりがいがあるんだろうな。いいなあ」って思ったんです。

自分でもわからないけど、なぜか興味があって、中学生から高校を卒業するまで、毎週日曜日に障がい者施設にボランティアに行っていました。

 

そして、実際に就職するとき、最初は、公立に入ったんですけど、その時も養護施設を希望していたので、養護施設に配属になったんです。

その後、配属先を変えて保育園に入職しました。

Q:「杜ちゃいるど園」は立ち上げから携わってらっしゃいますが、どんなことを大切にされていますか? 

限られたスペースと条件の中ですが、「子どもたちの居場所を多くしたい」という気持ちが強くありました。

子どもたちは、朝、園に来てから1日ここで過ごすわけですが、「1人になりたい時もあるよね」って思うんです。集団生活を生かす場ではあると思っていますが、自分が子どもだったら、1人でいられる場所の保証をして欲しいって思います。

外出するかどうかも自分で選びたいし、園の中でずっと本を読みたい日もあるかもしれません。そういう子が、必ず1人か2人いるんですよね。私はそれもいいなって思うんです。だって小学校に行ったら、そんな時間はなかなかつくってあげられませんからね。なので、居心地のいい場にしようということを大切にしています。

それは、毎日来る子どもたちもそうですし、私たち大人も毎日ここへ来るので、職員もそうですし、それから保護者の方も送迎でいらっしゃるし、来客も多くいらっしゃるから、皆さんに居心地のいい場にしたいと思っています。

あとは、外の方ともつながっていこうとすることも大事にしています。

 

Q:どのようなつながりがあるんですか? 

一番つながりがあるのは、お茶のお稽古に来てくださっている方々です。月に1回、5〜6人の方が、ボランティアで4 歳児と5歳児にお茶を教えてくださっているんです。

去年初めて、地域の方に向けて、外の駐車場で「園児による呈茶席」をやりました。ベンチに赤い毛せんを敷いて、園児たちがお茶を振るまったんですけど、100人にものぼる、ものすごい数の人が立ち寄ってくださいました。

 

また、石が大好きでコレクションしている子が6人いるんです。近くで拾ってきた石をマイクロスコープで見ると、「ダイヤモンドが入ってる!」とか、「翡翠が入ってる!」とか言うわけですよ。横浜市内の小学校に、石博士と呼ばれる石に詳しい2年生の子がいると聞いて、実際に子どもたちと会いに行ったりもしました。その小学校の校長先生ともお話しできて、子どもたちにとって、校長先生という存在を近くに感じる機会になったと思います。

その校長先生は、子どもたちが園内で「石博物館」をやっているときに見学に来てくださって、励ましてくださったんです。

そのほかにも、ごっこ遊びでお寿司屋さんをしている子たちが寿司のチェーン店に行ってインタビューをさせてもらったりとか、鎌倉が近いので、そこに住んでいる作家さんとお会いしたりとか、専門家の方々に触れる機会をいただけていますね。

 

Q:いいですね! 結構、お出かけをされるんですか? 

そうなんです。

この園は、どんどん出かけるのが特徴的だと思います。

自然の濃いところに出かけようというのが一番の狙いなんですけど、普段の散歩でもあちこち行っちゃうんです。

 

また、「ちびっこ探検隊」という名前をつけて、少し遠出するような外出もしています。

みなとみらいに、船が入港するのを見に行ったりとか。

長いときには、13kmくらい歩いて帰って来ることもあります。北鎌倉からハイキングコースで長谷の大仏まで行って、また山に上がって金沢区の金沢自然動物公園まで歩いて行っちゃうこともあるんですよ。

Q:保護者の方との交流はいかがですか?

親御さんを対象にした「杜ちゃカフェ」というのを、毎月開催しています。

子どもたちは上の階にいるので、1階をカフェの場にして、お迎えに来られたお父さん、お母さんたちにコーヒーや紅茶など、何かしらお茶をお出しして、少しくつろいでもらっています。

「杜ちゃカフェ」の日は、子どもたちには「今日はお母さんたちがゆっくりする日だから、下に降りないよ」と伝えています。子どもがいると、親御さんが落ち着かないですからね。

そういう時に、親御さんからいろいろお話をお聞きすることができたりしますし、保護者の皆さんにも楽しみにしていただいています。

Q:親御さんにお伝えしたいメッセージはありますか?

子どものことを、もっと信用してあげて欲しいなって思います。

例えば、自分の子どもは何がしたいのか、今この時点で見えていなくてもいいと思うんです。ここでおしまいじゃないので、急がないであげて欲しいと思います。

でも、今は急がせられてしまう時代ですもんね。「何かをやらなきゃ」って。特に、幼児教育・保育が無償化になったこともあって、何かしらのお稽古をしている子どもたちがすごく増えました。でも、今の子どもたちにとって、何が大事なのかなって思うんです。

 

一方で、お母さんたちは子どもたちにしっかり向き合う時間が持ちにくくなっているようにみえます。お仕事もあって忙しいだけでなく、やっぱりスマホの普及が大きく影響していると思います。子どもと一緒にいても、どうしてもメールチェックしたり、SNSを見たりしますよね。電車でも、座ると子どもにスマホを渡して、親御さんもスマホを見ている姿も見かけます。本当に、親御さんは大変だと思います。

今の子どもは今しかありません。だからこそ、サポートをするのが私たち園の存在なんだと思っています。

Q:卒園後の子どもたちは、どんなふうに成長していますか?

この園は、何しろただただ遊ぶっていう園なんです。

卒園した子どもたちが、「高校入学しました」とか「あの大学に入りました」とか、それぞれの進学のタイミングであいさつしに来てくれるんですけど、それはうれしいですね。前の園の卒園生の中にはプロのサッカー選手になった子も2人います。

びっくりするような偏差値の高い学校に入っている子どもたちも多くて、その子たちや親御さんが口をそろえて言ってくれるのが、「小さい時に、遊ばせてもらえてよかった」って。「たっぷり遊ばせてもらえたのは、本当によかった」と言ってくれます。

Q:大竹さんの心に残っている倉橋惣三の言葉は何ですか?

惣三さんは、子どもとの時間をすごく大事になさってる方なんだろうなって思います。

直接的にもそうだし、海外から息子たちに絵はがきをしょっちゅう送っているじゃないですか。あれも同じですよね。「距離は離れていても、あなたのことをしっかり思って、その時間を自分も過ごしていますよ」っていうことですもんね。だから、そういう気持ちは本当に大事にしたいなって思っています。

 

また、津守先生がまとめた文章の中に出てくる惣三さんの言葉が良かったです。

「子どもの時間を保証する」というようなことが書かれていて、「本当にそうだな」って。その子の時間なのに、どうしても私たちは「こうして、ああして」と言ってしまいがちです。すると、その子が自分の時間を生きられなくなってしまう。だから、惣三さんのように、「どうしますか?」って、その子の気持ちを聞くっていうことを、気をつけないといけないなと思います。

惣三さん……お会いしたかったですね。

Q:改めて倉橋惣三について、どう思われますか?

私は、『幼稚園真諦』が分かりやすかったです。

不思議なんですけど、今読んでも全然古くないですよね。惣三さんが生きていた当時は、もっと忙しくて、子どもの言うことなんて聞いていられないような時代で、まして子どもの言い分なんて聞くような時代じゃなかったはずです。

「親の言うことが絶対」という価値観だっただろうし、「こうしなさい」と子どもに命令していましたもんね。家長制で、お嫁さんの立場も弱かったはずです。

だけど、惣三さんは違いました。そういう時代に、「一人ひとりを大切に」ということを謳った惣三さんの考え方って、いったいどこからきたんだろうと、本当に不思議です。

でも、そういう考えは、いつの時代も忘れちゃいけないなと思いますね。




一般社団法人倉橋惣三協会

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